薬剤師が考える化粧品の話【成分編】
『美しい肌をつくる』ために使うスキンケア化粧品。
その中でも重要なのは美容効果を発揮する美容成分ですが、今回は化粧品の成分について薬剤師が考える、ちょっと『マニア』な話です。
成分の基礎『混合物』と『純物質』
これは化粧品の成分に限ったことではないのですが、化粧品の成分には『混合物』と『純物質』というものがあります。
『純物質』とは単一の物質を指し、身近な例でいうと「鉄」や「酸素」です。
『混合物』は純物質がいくつか混じったものです。
「空気」とは、「窒素」「酸素」「二酸化炭素」といった純物質が混じった混合物である、ということになります。
化粧品の成分で例えてみましょう。
「スクワラン」と「オリーブ油」という美容オイルがありますが、スクワランは純物質、オリーブ油は混合物です。
スクワランは純物質なので「スクワランとは何ですか?」と聞かれても「スクワランです」という答えになりますが、「オリーブ油とは何ですか?」と聞かれると「パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸などから成る混合物のオイルです」という答えになります。
純物質は由来に関わらず、100%まで精製されると、すべて同じものになります。
例えばスクワランは鮫、米、オリーブなどから採れますが、100%まで精製すると、鮫由来のスクワランも植物由来のスクワランもまったく同じものとなります(ただしスクワランに関しては100%まで精製することはできません)。
ですが混合物は、由来どころか産地などでもその性質は違ってきます。
使っているオリーブの差、その精製方法で「A会社のオリーブ油よりもB会社のオリーブ油のほうが伸びがいい」ということが当たり前に起こります。
他の化粧品成分で考えると「○○エキス」という成分はすべて混合物です。エキスは植物などから抽出した液体や粉末なので、様々な物質が含まれています。
「ビタミンC誘導体」(ビタミンC誘導体にもいろいろ種類がありますが)や「コエンザイムQ10」は純物質と言えます。
「コラーゲン」や「ヒアルロン酸」は純物質のように思えますが、それぞれ大きさの違うコラーゲン、ヒアルロン酸の混合体となっているので、厳密に言うと混合物です。
化学になじみのない人にはわかりにくく面倒な話ですが、美容成分として肌への浸透性や効果を考えるときには大切な話となります。
その成分は浸透する?浸透しない?
次に成分が肌に『浸透するかどうか』ということを考えてみましょう。
これは化粧品をつくる側が考えなくてはなりませんが「化粧品の成分が浸透するかどうか」を考えることはとても大切なことです。
例えばシミの元であるメラニン色素は肌の基底層という場所で作られますが、このメラニン色素ができるのを防ぐ成分があったとしても、その成分が肌に浸透できなければ効果は出ません。
逆に、肌の表面に膜を張って肌を保護したいときには、肌に浸透しない成分を選ばなくてはなりません。
物質が肌に浸透するかどうかは、肌の一番表面にある「角質層」を通過できるかどうかに大きく左右されますが、この角質層を通過して肌に浸透できるかどうかは、物質の大きさや性質によって決まってきます。
最も簡単な指標は、物質の「分子量」というものです。
分子量とは、簡単に言えば物質の大きさを表すものですが、健康な肌の角質層は、分子量が500~600程度までの物質しか通しません。
コラーゲンやヒアルロン酸は分子量が大きすぎて、肌に浸透できません。
Column:化粧品のコラーゲン、効果はある?
ここで前の「混合物」と「純物質」の話に戻るのですが「純物質」の場合、分子量がはっきりとわかります。
スクワランの分子量は422.81です。分子量だけ見ると、肌に浸透する可能性はあります。
ですが「混合物」の分子量はわかりません。
「オリーブ油の分子量は?」と言われても、含まれているパルミチン酸、オレイン酸、リノール酸の分子量しかわかりません。
要は「○○エキス」など混合物の美容成分が浸透するかどうかは簡単には判断できず、そのエキスの美容効果は「実際に使用してどうだったか?」というデータがあるかないか、またそのデータが信用できるものかどうか、で判断するしかないのです。
ちなみに、化粧品広告の「肌に浸透する」はあまり当てになりません。
化粧品で「肌に浸透する」という表現をするときは「肌の角質層に浸透する」という表現しかできないことになっています。
このため、実際は肌の奥まで浸透する成分も「角質層に浸透」と表現されていますし、逆にヒアルロン酸のようなほぼ浸透しないはずの成分でも「角質層に浸透」と宣伝されています。
角質層は肌表面の0.02mm、サランラップほどの厚さですが、化粧品会社は「いかに肌の奥まで浸透するように見えるか」ということを考えて宣伝をしています。
ですので、美容成分が浸透するかどうかは、化粧品の広告からはわからないと考えたほうがいいでしょう。
植物由来や自然派、本当に肌にいいの?
『自然派化粧品』
『100%植物由来』
いかにも肌に良さそうなイメージの言葉ですが、成分的に考えるとどうなのでしょうか?
結論から言うと「天然」や「植物由来」が肌に良くて「合成」や「石油由来」が肌に悪い、ということはありません。
「混合物」と「純物質」の話で触れたスクワラン、化粧品のイメージとしては鮫由来より植物由来のほうが人気はあるのですが、実は純度が高いのは鮫由来のスクワランです。
医薬品の軟膏は多くがワセリンを基剤としていますが、そのワセリンは石油由来です。
軟膏の基剤に不純物が多いと薬剤の効果に影響が出るので、基剤は精製度が高い必要があるのですが、それには石油由来の成分が使われているのです。
数十年前は成分の生成技術が低く、鉱物油が悪者にされたこともありますが、現在では「石油由来」や「合成」の成分は非常に精製度が高く、不純物が少ないという点ではむしろ植物系の成分より優れていると言えるでしょう。
また、化粧品の原料としてのロットブレ(原料段階での品質のブレ)も天然系の成分に比べると少なく、その結果安定した品質の化粧品がつくれます。
Column:無添加化粧品の定義と本質
化粧品の成分については、この他にも、配合量や成分の数をどう考えるか、効果データをどう判断するかなど、いくつか考えなくてはならないことがありますが、それはまた別のコラムでお話ししたいと思います。
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無添加化粧品の定義と本質
薬剤師が考える化粧品の話【成分編2】
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LABORATORY No.7