薬剤師が考える化粧品の話【成分編2】
前回は化粧品の成分について「混合物」か「純物質」か?といった基礎的なことから、肌への浸透をどう考えるか、「100%植物由来」や「自然派」などは本当に肌によいのか?といったトピックについてお話ししました。
今回はさらに、美容成分を化粧品に配合することについて考えた、またまた『マニア』なお話です。
【その成分の配合量は?】
手元に医薬品のハンドクリームや軟膏があったら、その容器やチューブを見てください。
必ず、有効成分が「何%で」配合されているか、もしくは「何mg」配合されているか「配合量」が記載されています。
ですが、化粧品には『配合量を公開する』という概念がほとんどありません。
ですので、化粧品に記載されている配合成分がまともな量で入っているのかどうかは、実はとてもあやしいのです。
化粧品は、美容効果を求める成分のほか、基剤、保湿剤、安定化剤、防腐剤など、様々な化粧品原料を組み合わせてつくりますが『推奨濃度』というものが設定されている化粧品原料があります。
これは、その化粧品原料を製造している原料メーカーが定めているもので「この成分の効果を出すためには○%くらいの量で配合してください」という、原料メーカーが「推奨」する「濃度(配合量)」です。
この「推奨濃度」は、その化粧品原料の効果を試験したデータから設定され、その濃度は化粧品原料によって、0.1%だったり、1%だったり、10%だったりと様々です。
では、例えば「このAエキスは1%の濃度で、たるみを改善する効果が認められています」という美容成分の化粧品原料を、推奨濃度である1%で化粧品に配合した場合「この化粧品はたるみに効果があります」と言えるのでしょうか?
答えは「NO」です。
なぜかというと、法律上化粧品は「作用が緩和なもの」(=要は「効いてはいけないもの」)と定義されていて、効能効果を表現できる範囲に、厳しい制限があるからです。
こういったことが多々あるので「Aエキスを配合していることが書ければいいから、推奨濃度は1%というけれど、0.01%くらいの微量で入れておけばいい」という化粧品メーカーも出てきます。
ドラッグストアで頭痛薬を買うとします。
アスピリンが330mg入った1,000円の○○錠と、同じくアスピリンが330mg入った500円の△△錠、値段はずいぶん違いますが、同じ成分が同じ量で入っているので、効果にあまり差は出ません。
一方「たるみに効果がある」というウワサを聞いて、Aエキス配合の化粧水を探しているとします。
Aエキス配合の5,000円の◇◇化粧水と、同じくAエキス配合の1,000円の××化粧水。
どちらもAエキスの配合量がわからないので、効果は判断できません。
言えることは「値段の高い5,000円の◇◇化粧水のほうが、Aエキスを多く配合している可能性が高い」ということだけです。
【戦は『数』ですが配合成分の『数』は?】
次に、配合成分の『数』について考えてみましょう。
化粧品はパッケージに全成分が記載されていますが、その中に聞いたことのある美容成分がたくさん入っていると、効果がありそうな感じがしますね。
水、グリセリン、BG、…加水分解コラーゲン、水溶性コラーゲン、アーチチョーク葉エキス、加水分解酵母エキス、ハトムギ種子エキス、アセチルヒアルロン酸、加水分解ヒアルロン酸、加水分解エラスチン、ユビキノン<コエンザイムQ10>、アスタキサンチン…
ほとんどの人が「美容成分の数は多ければ多いほうがいい」と考えるでしょう。
ですが、この考え方は正しいでしょうか?
実は、ある美容成分の効果をしっかりと出したいのであれば、他の美容成分などは加えずに
・その美容成分を単独で
・推奨濃度以上で配合した
・シンプルな処方の化粧品
をつくるのがベストでしょう。
なぜかというと、成分同士が影響し合うことを考えなくていいからです。
そういう意味では、単独の化粧品原料をそのまま瓶に詰めて販売している『原液系』の美容液は「その美容成分の効果だけがあればいい」というのであれば、理想的なかたちです。
美容成分の数がたくさん入っていても、それぞれの美容成分が推奨濃度で入っていなければ、効果は期待できません。
また、美容成分をきちんと推奨濃度で配合するのは、かなりコストがかかります。
そう考えると、化粧品の値段に対して美容成分の数が多くなればなるほど「お得」なのではなく「美容成分の濃度が低い=効果がない」という疑いが強くなります。
Column:化粧品の原価はどれくらい?
先ほどでてきたAエキス配合の5,000円の◇◇化粧水と、同じくAエキス配合の1,000円の××化粧水。
「1,000円の××化粧水、安いけど、Bエキスに、Cエキスに、Dエキスまで入っているから、こっちにしよう」と思ってはいけません。
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LABORATORY No.7