サンゴと日焼け止め
サンゴと日焼け止め
こんにちは。ラボナナのよっしーです。
先日、化粧品関係の知人とメールをしていました。
この方、最近知ったのですがダイバーで、素潜りのインストラクターも取得しているとのこと。
メールも化粧品の話になってしまうのですが、その方からこんな話を聞きました。
「ハワイやパラオで、サンゴに悪影響があるということで日焼け止めの販売が中止になる件で、海仲間から、日焼け止めのこと、色々聞かれたりするんですよ。使っちゃいけないの?とか。日本はなんで規制しないの?とか。中には、『日焼け止め=悪』という認識にすりかわったり・・・自然派な人たちに説明することになるので、自然環境ありきなのか、人の身体への影響もふまえた上で何と答えようか・・・とモヤモヤ・・・両方に関わっている身だからこそ、いつか、私のまわりの海仲間にはきちんと伝えたいんですけどね・・・よっしーさんならどんな話をします?」
『化粧品』と『自然環境』。
あまり一般の方の目には触れませんが、このテーマの話は実は他にもあります。
近年ではマイクロプラスチックビーズの問題がありました。
どんな話だったかというと
歯磨き粉の研磨剤などに使われている微細なプラスチック粒子が排水から海に流れる。
↓
そのプラスチックに有害物質が溶け込む。
↓
そのプラスチックを魚が飲み込み、魚の体内で有害物質が濃縮される。
↓
それを食べる人間が危ない。
という話で、化粧品メーカーがこぞって研磨剤やファンデーションの感触剤にプラスチック粒子を使用しないように方向性を変えました。
(もしかしたら一般の方は「え?そんなものにプラスチックが使われているの?」という驚きが先にあるかも知れませんが…)
まあこれについては「そういう話があってプラスチック以外の研磨剤に変えられるなら、それでOKでしょう」という感じもします。
でも一方「それならば車のタイヤから出るゴム微粒子のほうが量も多くてよっぽど問題」という意見もありました。それから、これに乗じて「肌にやさしいオーガニック化粧品を広めましょう」みたいなことが言われることもありました。
私はマイクロプラスチックビーズ問題について、詳しく調べて自分なりの見解を作り上げたわけではありませんが「たしかに車のタイヤの擦り減ったゴムって、どこに消えているのかなぁ…」とか
「ゴムもプラスチックと同じように有害物質を吸収するのかな?」とか
「そもそも無害なプラスチックが海に流れるより、そのプラスチックに吸収される有害な物質が海に漂っていることのほうが問題ではなかろうか?」とか
「あれ?もっと根本的に、なんで浄水場があるのにプラスチックが海まで行ってしまうの?」とか
「オーガニック化粧品が環境にやさしめであることは賛同するけど、オーガニックだから肌にやさしいなんて根拠に乏しいことを軽々しく発信するな」とか、色々と感じることはありました。
自分の知らないところで起きている危険に対して警笛を鳴らしてくれる人がいるのはとてもありがたいことですが、今のこの情報が溢れている世の中、自分が知識を持っていない分野で語られる話を聞くときは、フィルターを1枚通して聞いたほうがいいということが多々あります。
前置きが長くなってしまいましたが、今回は主にダイバーさん向けにフィルターを1枚通した、化粧品と自然環境についてのお話です。
サンゴにも日焼け止めにも種類があります
パラオで禁止されるのは10種類の化粧品成分ですが、当然、該当成分が含まれていれば日焼け止めでなくスキンケア化粧品もダメということになります。
ただ、最も危険視されている成分が紫外線カットに使われる成分のため「日焼け止めが使えない」という視点で主に報じられています。
その成分は「オキシベンゾン」と「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」という成分。
両方とも『紫外線吸収剤』と呼ばれる成分のひとつです。
サンゴにも種類がありますが、日焼け止めにも種類があります。
日焼け止めに使われる成分には、鏡のように紫外線を反射して紫外線をカットする『紫外線散乱剤』と、紫外線のエネルギーを吸収して紫外線カット効果を出す『紫外線吸収剤』があり、『紫外線散乱剤』だけで日焼け止め効果を出している日焼け止めを『ノンケミカル』と呼びます。
紫外線散乱剤が酸化チタンや酸化亜鉛といったいわゆる“ミネラル”であることに対して紫外線吸収剤が化学物質(=ケミカル)であることより、ノンケミカル(化学物質不使用)と呼ばれます。
(「化学物質」というのは俗的な呼び方で紫外線吸収剤を正確に表現すると「有機化合物」と呼びます)
細かい話はここでは省きますが、紫外線散乱剤の肌に対する安全性が比較的高いことに対して紫外線吸収剤は感作性(アレルギー性)などがあることがわかっており、日本でも紫外線吸収剤については使用できる成分品目と、化粧品に配合できる濃度の上限が定められています。
ではなぜ安全性に懸念がある紫外線吸収剤が使われるのかというと、紫外線カット効果の高さ、日焼け止めの使用感、紫外線カットの持続性(水で落ちないかどうか)といった点で紫外線吸収剤のほうが紫外線散乱剤より優れており、また適切な配合量で使われる紫外線吸収剤が人体に対して必ずしも危険とは言えないからです。
要は、ひとことで『日焼け止め』といってもそれには安全性を重視したもの、機能を重視したもの、といった具合に種類があり、一概に「日焼け止めとは~」と本質を語れない、ということです。
日焼け止めとその成分について詳しく知りたい方はこちらをお読みください。
column:日焼け止め おすすめの選び方
column:日焼け止め おすすめの選び方 その2
日焼け止めを使う理由は何ですか?
ではちょっと根本的なところに戻って、日焼け止めを使う理由を考えてみましょう。
「もちろん、日焼けしないため」
その通りです。
ですが、ひと昔とちがい、紫外線を浴びることのリスクの認識はさらに広まっています。
以前は「紫外線を浴びるとシミになる」程度だったかも知れませんが
今は「シワを含めた肌老化の最大の原因は紫外線」
「皮膚がんのリスク」
先日ノーベル賞を受賞した本庶先生の研究は小野薬品の癌治療薬『オプジーボ』として癌治療に画期的な革新を起こしていますが、医療が発達して長寿が叶えば叶うほど人は健康に対するリスクに敏感になっていきます。
ですから、照りつける紫外線、遮るものもない海の上、紫外線を防ぐために日焼け止めを使うのは、人間という豊富な知恵を持った生物としてごく妥当なのだと考えられます。
ですがそれは人間の話。
肌に塗った日焼け止めの成分が海の水に溶け出して、他の生き物に影響を与える。
そのことを自然は想定していません。
自然と自分に、できること?
オキシベンゾンやメトキシケイヒ酸エチルヘキシルがサンゴに影響を与えるということは、おそらくはきちんとしたデータと根拠があり正しいのでしょう(でなければパラオやハワイの姿勢を疑いますが…)。
ですが前置きでお話ししたマイクロプラスチックビーズと同じように、サンゴを取り巻く問題はそれだけでは語れないようで「サンゴ礁を抹殺しているのは二酸化炭素排出と気温上昇が要因であり、日焼け止めの影響は小さい」という専門家の見解も発表されています。
https://www.cnn.co.jp/travel/35128819-2.html
また、別の否定的意見もあります。
https://www.bbc.com/japanese/43999839
要は様々な情報があり、手に入る情報だけでは、それのどれが確実なのかわからないのが現状と言えるのでしょう。
しかもこれに乗じた、きな臭い話もあります。
『reef-safe(サンゴ礁に安全)』と記載された、オキシベンゾンとオクチノキサート(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)を使っていない代替製品がある。大企業の多くは、サンゴに悪影響があるという証拠は不十分だと、日焼け止め製品の禁止に反対している。大手企業は反発している。ジョンソン・アンド・ジョンソンやロレアルは賛同していない。しかし業界の残りの大部分はすでに、いわゆる『ハワイ適合の日焼け止め』を発表しており、いいマーケティング材料になっている。一部のメーカーは「Safe Sunscreen Council(安全な日焼け止め協議会)」と呼ばれる組織を結成し、パラオなどの動きを歓迎している。
https://ironna.jp/article/11085
いいマーケティング材料にされたくはないですが、こうした現状において確実性が高く、意識してなんとかなることは2点だと思います。
① 自分の肌のことを考えるなら、紫外線カットはきちんと行うこと。
② 環境のことを考えるなら、海に入るときにはできればノンケミカルの日焼け止めを選ぶこと。
それで結果的に何が起きたかは判定することができません。
もちろん「自分の肌よりも自然環境が大切」という人は日焼け止めを使わなければいいでしょうし「ハワイやパラオの見解を疑う」という人はバッチリと日焼け止めを塗ればいいのかも知れません。
(日本から持っていく化粧品に規制はないようです。本音のところ規制する手段がないのだと思われますが…)
ご自身が何を求めて海に入るのか、どういったところで納得ができるのかは、考えてみるしかないと思います。
はっきりと結論づけることはできませんが、ここまでの話が海を愛する方への、なにかしらの判断材料になれば幸いです。
最後にひとつ。
このコラムの元となった知人からいただいたノンケミカルの日焼け止めの情報を。
https://oceana.ne.jp/infomation/87246
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/343968
このコラムをご提供しているLABORATORY No.7では日焼け止めを扱っておりませんし、まったく関係のない他社様の製品ですが、成分的にはオイルとロウに紫外線散乱剤を混ぜただけで環境意識がとても高い商品かなと思います。
紫外線散乱剤に『ノンナノ』と書かれていますが、これはノン(=していない)ナノ(=ナノ化=微粒子化)という意味で「ナノセンチメートルまでは微粒子化していません」という意味です。
酸化チタンや酸化亜鉛といった紫外線散乱剤は、ナノレベルまで細かく微粒子化すると紫外線カット効果が高まり、日焼け止め自体の使用感もよくなるのですが、逆に微粒子化すると活性酸素を発生させ、肌の老化を早めると言われています。(ただし、どこまで老化に影響があるのか、正直なところはっきりとはわかっていません。)
こちらの商品は肌の老化だけでなく、自然界への影響も考慮してノンナノを使用しているようです。
ただ実際に触っていないので何とも言い難いですが、PAの数値が++++と高いことから酸化亜鉛の配合量が高いのかなと思われます。
紫外線カットという視点で見たときには好ましいのですが、酸化亜鉛はベビーパウダーなどに使われる粉体で、この酸化亜鉛の含量が高いとボテボテした使用感になり、白浮きもしやすくなります。また、ウォータープルーフにするためにオイルとロウだけのベースにしているので、もしかしたらベタつくかも知れません。
「使用感より環境対応が大切」という日焼け止めなのかも知れませんが、成分的には目的がはっきりしていて、いい日焼け止めなのではないかと思います。
ご興味のある方は。
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日焼け止め おすすめの選び方
日焼け止め おすすめの選び方 その2
Thanks for reading to the end
LABORATORY No.7